社員のモチベーションを高める人事異動とは

洋書が並べられた本棚。壁に貼られたカレンダー。

前回の記事(「理想的な配分を実現する賞与制度とは」)では、これからは右肩上がりで賞与や賃金を用意することが難しいため、お金によらないインセンティブを考える必要があることをお伝えしました。

なかでもやりたい仕事に就かせる(異動希望を実現させる)のは、社員の仕事へのモチベーションをグッと引き上げます。

 

そこで会社としては、社員の働きがいのために中長期的な視点で人事異動を考えていかなくてはなりません。ちょうど今年の下半期を見据えて、10月から新しい人事体制をスタートされる企業もあるかもしれませんね。

 

人事異動とは、社員の力を活かして会社を伸ばしていくために、どのように人材の配置や役割を考えるか?ということです。

 

そのため会社には人事異動についての裁量が広く認められていますが、事前によく考えておかないと、「なぜ今の部署で頑張っている私が異動になるのか」「経験のない仕事を一から始めるのは無理だ」と逆に社員のやる気を削ぎかねません。

そこで今回は、社員のやる気を引き出す人事異動のポイントについて、確認していくことにしましょう。

人事異動のパターン

デスク上の観葉植物。サボテンの葉にWELCOMEの文字がホワイトマーカーで書かれている。

人事異動には、【表1】のように「配置転換・出向・転籍」があります。これらのルールは、裁判例の積み重ねによって形成されてきました。

 

①は同一企業内での人事異動なので、基本的に社員の同意は必要ありません。

会社による人事権の行使(業務命令)として行われることになりますが、その根拠は就業規則によります。就業規則に「業務上の必要性により、社員に人事異動(転勤、配置換えなど)を命じることがある」旨の規定があることで、会社に職務内容や勤務地を決定する人事異動の命令権があると考えられています。

 

一方、②と③は別の会社への人事異動であり、入社時には別の会社で働くことは想定されていなかったはずなので、改めて社員の同意が必要となります(業務命令の範囲で行うことはできません)。

 

【表1】

配置転換 転勤

勤務地の変更

 例)大阪本社から東京営業所に働く場所が変わる

配置換え 

 業務内容の変更

 例)商品企画から営業へ仕事内容が変わる

出向

自社に所属したまま一定期間、他の会社の業務に従事

 例)所属はA会社のまま、B会社で働く

転籍

所属している会社を退職し、別の会社と雇用契約を締結

 例)所属していたA会社を退職して、C会社に入社

社員のやる気を引き出す人事異動の伝え方

オフィスでノートパソコンを広げながら思案にふける男性社員

すべての企業において、一番押さえておかなければならないのは「その人事異動が社員のやる気を引き出し、成果に結びつくか?」ということです。

 

必要性やバランスを欠いた会社の権利濫用とみなされると、人事異動命令が無効となるだけでなく、社員との信頼関係を維持することはできません。

ですから会社には、人事異動を行う必要性と積極的な理由が問われるのです。

 

「会社の必要性と積極的な理由」とは、たとえば次のようなことです。


  • あなたに適した他の仕事で能力を発揮してもらいたい。なぜなら、あなたに20代での初期キャリアで様々な責任のある仕事を経験してほしいから
  • 3年間〇〇地域を担当してもらったので、次の3年はその広域の△△エリアを担当してもらいたい。なぜなら、あなたに顧客接点を担う人材を育成する立場になってほしいから
  • 商品開発で培ったマーケティングスキルを顧客訪問担当として活かしてもらいたい。なぜなら、あなたに商品の品質の安定性やニーズへのフィット感を顧客に伝えて欲しいから

特に「なぜなら、あなたは〇〇だから」の理由次第で、社員のモチベーションが上がるかどうか決まります。

ですから人事異動を発令する際には、社員が新たな仕事にやりがいを持ってもらえるように伝えることが大切です。具体的に説明する内容をあらかじめ準備しておくことをお勧めします。

次の4点を整理しておくと、本人のやる気が高まる伝え方ができると思いますので、参考にしてみてください。(*印部分は例です。)

1)異動の必要性(会社のこれからの業務展開など)

 *競合他社に打ち勝つため、今期は当社の主力商品〇〇の販路拡大により注力していく方針。

  そのため営業担当者を増員する。

 

2)対象社員に新たに担ってほしい役割(具体的な仕事内容、求めるアウトプットなど)

 *だから営業担当として△△地域の販路を開拓してほしい。今まで主力商品〇〇の開発に携わってきたマーケティングの

  経験から、消費者のニーズや動向をよくつかんでいると思うので、小売店と積極的に情報交換してほしい。

 

3)異動の人選基準(仕事の関連性、選ばれたポジティブな理由、期待していることなど)

 *入社以来の5年間、商品企画で自社ブランドを熟知してきた。次は顧客との接点を持ち、現場で生の声を聞いてきてほし

  い。それを社内へ持ち帰ってくれると商品の品質向上につながり、あなた自身も多角的な視点が養える。

 

4)異動後のフォロー

 *社長が主催する勉強会が月1回あり、積極的な指導や意見交換がある。

仕事の目的を知ったうえで仕事をするのと、知らないで仕事をするのとでは、成果の差は明らかですよね。

また意義を説明して納得してもらうことは、相手(人事異動命令を受けた社員)の視野を広げることにもなります。

人事異動で注意するべき点

ミニチュアハウスの模型とクローバー。

社員のポテンシャルを引き出すことを意図して人事異動を行うはずが、「事務職の募集に応募して採用されたのに、営業職へ異動なんて応じたくありません」との返答を目の当たりにして、対応に悩む人事担当者もいらっしゃるかもしれません。

 

確かに入社時の労働契約において、「転勤なし」「〇〇職に限定」としていた場合、これらを変更するような人事異動命令を行うには、社員の同意を得なければなりません。ですから人事異動を行う際には、対象社員の労働契約書を再チェックしておきましょう。

 

では次に、求人広告媒体などでは従事する仕事内容や勤務地が書かれていますが、これは労働契約上、職種や勤務場所を限定したことになるのかどうかです。

 

ほとんどの裁判例では、募集広告で職種や勤務場所の記載があるからといって、「職種・勤務場所限定で」採用するものとはみなしていません。

ですから入社後、キャリアアップに向けた人事異動の予定があるなら、本人の心づもりのためにも、職種の変更や転勤の可能性について労働契約書に記載しておくことをお勧めします。

 

なお、勤務地が変わる転勤の場合、社員の生活に少なからず影響を与えるので、プライベート面を含めて考慮する必要があります。転勤に際して、家庭の事情が問題となる裁判例もみられます(重病の家族の面倒をみている社員が転勤命令を受けたケースなど)。

 

ですから転勤ひとつをとっても、普段からそれぞれの社員と、家族構成や家族の健康状態などを聞けるような信頼関係を築いておくことが大切だと思います。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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