台風が来たとき勤怠と賃金の支払いをどう処理する?

パープルのレインブーツ。傍らに雨傘が2本、傘立てに立てられている。

9月に入り、朝晩の暑さは少し和らぎましたね。青空の高さやイワシ雲をみるとさわやかな秋の気配を感じます。とはいえ台風シーズンの真っただ中なので、その進路が気にかかるところです。予報によると今年のピークは9月だそうですね。

 

大型で強い台風が朝の出勤の時間帯に接近すると、社員の通勤に影響が出ます。休校や休園となったこどもの面倒を見なければならない社員もいるかもしれません。

 

ですからこの季節になると、「交通機関の混乱に社員が巻き込まれないようにしたいが、その場合、勤怠や賃金の支払いはどう処理するとよいのか」とのご相談をお聞きします。

 

そこで今回は、

  1. 始業時刻の開始前に公共交通機関が停止していたとき
  2. 勤務時間中に公共交通機関に影響が出たとき

この2つのケースにおける、勤怠と賃金の取り扱いについて具体的に確認していきたいと思います。

始業時刻の開始前に公共交通機関が停止していたとき

テレビで台風情報をオンエア中。音量を上げようとリモコンボタンを操作する手。

台風が上陸し、始業時刻の開始前に公共交通機関が停止していた場合、どのように対応するとよいのでしょうか。

 

「使用者の責めに帰すべき事由」(会社都合)による休業の場合、会社は社員に対して休業期間中、その平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければなりません(労基法26条)。休業が「使用者の責めに帰すべき事由」によるものでない場合には、会社に休業手当の支払い義務はありません。その理由が不可抗力による場合には賃金の支払義務も生じません(就業規則でこれと異なる規定をすることはOK)。

ここでいう不可抗力とは、

  1. その原因が事業の外部より発生した事故であること
  2. 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

この2つの要件を満たす必要があります。

台風によって公共交通機関が停止したため会社が休業した場合、これはこの2つの要件を満たす「不可抗力によるもの」と考えられ、使用者の責めに帰すべき事由にはあたりませんし、かつ、使用者の経営管理上の責任ともいえないことから、休業手当の支払いは必要ありません。

 

けれど無給の休業となれば、社員は労働の義務から完全に解放されることになってしまいます。そこで「不可抗力の災害だから無給で休ませればよい」という発想でいると、社員のモチベーションが上がらず、事業継続性(BCP)は向上しません。非常時にこそ緊急対応の業務が増えるにも関わらず、社員と力を合わせることができずに大きな損失を負いかねません。

 

自然災害発生の非常時において、事業継続や早期再開の仕組みを整えておくことは今や企業にとって日頃から備えておくべき課題です。近年は台風や大雨によって、川の氾濫や土石流、がけ崩れ、地すべりなどが発生し、生活や生命が脅かされるような自然災害が度々発生しているからです。

 

ですから不可抗力による場合は、法律で定める最低基準としては、無給で構わないということになりますが、就業規則で「平均賃金の3分の1以上6割以下の範囲で会社が定める額を支払う」(宿日直勤務《平均賃金の3分の1》と休業手当の範囲で設定)と規定することも検討してみてもよいかと思います(※下記の図を参照)。

 

公共交通機関に影響が出るような自然災害はいつ起こってもおかしくないので、自宅待機といえども社員に事業継続のための心構えを持ってもらうことが目的です。

宿日直勤務

平均賃金の3分の1

*(1回の宿日直手当の最低額は、宿日直につくことの予定されている同種の労働者に対して支払われる平均賃金の3分の1になる)

休業手当 平均賃金の100分の60以上
 始業時刻の開始前に公共交通機関が停止していたため休業する場合の支払い  平均賃金の3分の1以上6割以下の範囲で会社が定める額

勤務時間中に公共交通機関に影響が出たとき

通勤ラッシュ。電車の改札口を足早に通り過ぎる会社員たち。

では、勤務時間中に、台風によって公共交通機関へ影響が出始めた場合はどうなるのでしょうか?

公共交通機関に影響が出始めても、それは通勤に影響があるだけで、仕事を行う上では支障が生じていないので、休業手当の支払いが必要になります。

 

このように早退命令で1日の所定労働時間のうち一部について休業させる場合、1日全体で支払われる賃金をみて、その額が1日の平均賃金の6割を下回っていれば、その差額を支払うことになります。もし早退命令を行ったとしても、現実に働いた時間分を計算した結果、6割以上の賃金が支払われるのであれば、休業手当の支払いは必要ありません。

 

では、実際に事例をあたってみましょう!

 

【前提条件】

・平均賃金20,000円(時間単価2,500円)

・所定労働時間8時間

 

① 休業手当が不要の場合

・6時間勤務後、台風によって早退命令

・6時間分の賃金 20,000-(2,500×2)=15,000円

・休業手当 20,000×60÷100=12,000円

・6時間分の賃金15,000円 > 休業手当12,000となるため、休業手当は不要

 

② 休業手当が必要な場合

・4時間勤務後、台風によって早退命令

・4時間分の賃金 20,000-(2,500×4)=10,000

・4時間分の賃金10,000円 < 休業手当12,000となり、差額の2,000円の休業手当が必要

 

いかがでしたか?

「面倒くさい」「手間がかかる」という感想を持たれたかもしれませんね。

その感想はとても正しくて、このような処理を行う場合、休業手当の金額を個別に計算する必要がありますし、勤怠処理(一部休業)の社内手続きなど管理が煩雑になります。ですから実務上、手続きにかかるコストを検討する必要もあると思います。

 

よって賃金を全額支払うか、休業手当を支払うかは、メリットとデメリットを総合的に考慮したうえで判断することになります。

また「社員のモチベーションにどう影響するのか?」と考えることも大切です。なぜなら会社がそもそも社員を早退させるのは、台風による交通機関の混乱を避け、社員の安全確保が目的であったはずだからです。

ですから、早退しても全額賃金を支払う方が望ましいといえますね。

 

このような会社の意図を社員に伝えることも、大切なコミュニケーションに一役買うと思いますよ!

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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