労働時間にカウントするとき、しないとき

ベーカリーショップの外観。ウィンドーから焼きあがったパンがところ狭しと並んでいる。

たとえばお店に「営業中」の札を掲げていても、常にお客さんが来るとは限りません。

けれど「営業中」としているだけに、接客自体はしていなくても、こまごまとした準備や店番などは必要です。お客さんがいないと、経営者としては「仕事をやっていない」という感覚になってしまいがちですが、これが社員ではどうでしょうか?

 

店番などはたしかに立っているだけかもしれませんが、休憩している状態でもありません。このような時間のことを「手待ち時間」といい、会社の指揮命令下に置かれている状態、つまり労働から完全に解放されていないとの見解から、労働時間になります。

 

このように労働時間が、必ずしも実際の作業時間と一致しないことも少なくありません。

労働時間としてカウントするのかどうか判断に迷う、とよくご質問を受ける事例をもとに、具体的にみていきましょう。

始業の10分前に出社を命じるのは?

いつもより早めに出勤して、通勤途中のコーヒーショップで買ったコーヒーを飲みながら、パソコンでメールチェックする女性社員。

9時始業の会社の場合、作業準備やパソコン起動などを考えると9時ジャストからフルモードで仕事をスタートさせるには、始業10分前には自分の持ち場についておいてほしいもの。

そこで「就業規則に始業10分前に席についておくこと、と書いておきたいのですが」と経営者の方からご相談を受けることがあります。

 

この場合、参考になるのが「作業服および保護具を装着する時間は労働時間か」が争点になった裁判です。これは労働時間だと判断されました。「作業服、保護具などを決められた場所でつけなさい」と会社が指示したからです。

 

これをもとに考えると、たとえ9時始業であったとしても、就業規則において「始業10分前に出社しなさい」と指示しているため、この10分間も労働時間であり、残業代の対象になります。労働時間とは、会社の指示内容で決まるのです。

 

「始業10分前に出社するなんて、社会人として常識じゃないのか?」と思われるかもしれません。もっともな意見です。

たしかに同じ10分でも、自主的に始業10分前に出社して仕事の段取りをする場合、これは労働時間になりません。会社が求めなくても本人が主体的にやっている行動だからです。

 

このような行動を社員に求めるのなら、就業規則には「始業時刻には業務を開始できるように出勤すること」とあくまで社員の自主性を重んじるよう規定し、そのような行動が「あたりまえ」であるような企業風土を育てたいですね。

研修先から会社へ帰る移動時間は?

残業中のデスク。オフィスの電灯が一部すでに消灯されており、デスクライトがほのかに広げた手帳を照らしている。

午後から外部機関で研修を受講し、現地からそのまま家へ直帰してもOKな日ってありますよね。研修終了の時刻と終業時刻がほぼ同じときに多くみられるパターンだと思います。

けれど翌日の仕事の段取りが気になって、会社へ戻って残業した場合。研修先から会社へ戻るための移動時間と、実際に残業した時間、これらはどう考えればいいでしょうか。

 

研修先から会社に戻って行った残務処理の時間は、日中にできなかった仕事の処理の一環として労働時間となります。

会社までの移動時間が労働時間になるかは、次のような観点で判断することになります。

 

〇労働時間にならない

1)通勤、2)直行直帰の際の自宅と訪問先間の移動、3)宿泊を伴う出張

 

〇場合によっては労働時間になる

4)会社と訪問先間の移動、訪問先から訪問先への移動

①その移動時間が会社の指定するスケジュールに組み込まれていて実施されているとき、

②移動中も貴重品の運搬で十分な注意義務を負わされているとき、

などのように会社の指揮命令下にある、と考えられる場合は労働時間になる

 

これら1)~4)の観点から検討すると、このシチュエーションの研修先から会社への移動時間は4)にあたります。けれど会社の指定するスケジュールに組み込まれているとは考えにくく、移動中に貴重品を運搬する注意義務の負担がない限り、労働時間にはなりません。

 

このような判断に迷わないためには、研修へ行かせる際には、その前後の仕事のスケジュールや段取りを上司と(研修に行く)本人との間であらかじめ調整しておくといいですね。

これからの労働時間のあり方は

デスク上にポップな文房具が載っている。花柄のノート、ショッキングピンク色のハート型ペン立て、デジカメ。

工場労働の時代は、仕事の多くが肉体を酷使するものであったので、あまりに長い労働時間では倒れてしまいます。ですから肉体労働に従事する人を保護するために、法律で労働時間についての規制が設けられました。

 

現代ではパソコンやインターネットの登場で、頭脳労働が占める割合も高くなっています。工場労働者を前提とした法律と、現実の働き方にはギャップを感じる場面も日常的にあるかと思います。

けれど法律は働き手を保護する最低基準を設定しているだけであって、「労働時間は必ず9時から5時までにしなければいけない」と決めているわけではありません。

 

今求められるのは、会社を伸ばすために社員がもっとも成果を出す働き方とは?を考えること。

たとえば子育て中の社員が多く、保育園の送り迎えなどで時間のやりくりに悩んでいるなら、「労働時間は連続でなくても細切れでもよい」と考えるのもひとつの方法かもしれません。そもそも8時間集中して仕事をするのは限界があるので、効率よく仕事を処理する行動パターンが生まれるきっかけにもなります。

 

単に労働時間を短く、残業しない、といったことに限らず、会社の業績を伸ばして、かつ社員も働きやすい環境を考えていきたいですね。

社労士事務所Extension 代表・社会保険労務士 高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。パソコンに集中して打ち込む社員。
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