「高島さんの言う『社員が動く就業規則』では、社員が好き勝手、やりたい放題になりませんか?空気を読めない人には、むしろ厳しくルール化した『社員を縛る就業規則』の方がいいような気がするのですが」
こんな質問をいただきました。
社員が動く就業規則とは、創造性やアイデアを発揮して、顧客が持つニーズや課題を解決しようと、自ら動くことができる社員を育てるもの。
一方、社員を縛る就業規則とは、経営者のカリスマ性を発揮して「これをしてはいけない、こうすべき」と厳しいルールを課すもの。
仕事はひとりでやるものではなく、チームでやるものなのでルールは大切です。なければ混乱を招くこともあるでしょう。けれどルールを多く設けることで社員が自ら動いて、会社が伸びるわけではありません。
質問にお答えしながら、社員が動く就業規則のもとでは社員がやりたい放題にならないのか?について詳しくみていきたいと思います。
縛るルールはないが共有するものがある
社員が自ら動く会社では、「これはこうすべきだよね」「みんなわかっているよね」といった共通の認識、目的意識を持っています。
逆に言えば、こういった暗黙知を共有して理解できる人しか、会社にいないのです。社内での暗黙知を言語化していて、社員の採用面接の時点でしっかり見極めているからです。
そういった取り組みを続けることで、会社の価値観や社風が確立されます。そして「優秀なメンバーに自分も加わりたい、ここで働きたい」という人がどんどん来るようになります。
このような良いスパイラルに乗っているのです。
ではなぜ、行動を規制する厳しいルールがないのに、社員はやりたい放題やったりしないのでしょうか?
それは仲間から見られている、という意識から自分を律することができるからです。つまり、優秀な同僚からのプレッシャーがあり、それを感じることのできる意識の高い人しか会社に残れないのです。ここでの意識の高さとは、仲間の役に立ちたい、チームに貢献したいといった思いです。
縛るルールはない代わりに、共有するものがあるのです。
このような価値観を共有しやすくするため、行動パターンを言語化したものが就業規則です。就業規則は、いい仕事をしていいものを作るために、仲間意識や団結力を持たせるポジティブなメッセージを発信する役割を果たします。
冒頭の「空気を読めない人」をあれこしなさい、と”指示を受けないと動けない社員”と解釈するなら、社内の共通認識である行動パターンを就業規則へ明記しておくといいですね。やらされ感がなければ、社員も能力を発揮しやすくなります。その結果として、会社の業績の伸びにつながります。厳しいルールで縛るだけが、社員をマネジメントする唯一の方法ではありません。
労働力は市場で手に入るが
世間では、市場の変化に素早く対応するため、会社組織のあり方がフレキシブルになってきています。仕事の進め方がプロジェクト単位になって、外注やアウトソーシングも進んでいます。
会社組織を維持するには、教育コスト、毎月の給料、オフィスコストなどがかかります。社員の力を単なる「労働力」として捉えれば、市場へコストを支払うとアウトソーシングなどで簡単に手に入り、社員にかかるコスト(人件費)を削減することができます。
それでも、社員と一緒に会社組織としてやっていく理由は何なのでしょうか?
それは、「いい仕事をしたい」「喜ばれるいいものを作りたい」「自分たちらしさ」といった会社と社員の間で共有する認識や価値観があるからです。コストでは代えがきかないものなのです。
そもそも今は大量生産やルーティンワークだけでは、生き残っていくのが難しい時代です。ルーティンワークであればアウトソーシングでも対応可能でしょう。けれど現在の市場で競争していくには、顧客の悩みを解決したり、ニーズをかなえるために創造性を駆使して、アイデアで勝負していかなければなりません。社員一人ひとりの強みや個性が重要になってきます。自ら動くことのできる人材の存在感が、今まで以上に増します。
会社で働く意義が社員に伝わっているか
また、社員を労働力と割り切って、「雇いやすく、切り捨てやすいほうがいい」という発想でいると、会社を支える人材は育ちません。
幹部社員を育てられない会社、社員が会社の価値観、設立の理念を理解できない会社は、いずれは淘汰されていくのではないでしょうか。
よって、社員が働きがいのある会社をつくることがとても大切です。
誰かと一緒になってアイデアを出し合うことで、個人ではできない大きな仕事ができる。
会社組織で働くことで、社会にインパクトを与えることのできる、より大きな仕事に携わるチャンスが手に入る。
このような会社組織で働く意義、この会社で働くからこその意義を社員に感じてもらうことが必要です。効率を求めるのは良いことですが、人材の育成も忘れてはいけません。情報を共有して、社員ひとり一人が仕事(プロジェクトなど)全体のことを考えるようにしたほうが、社員たちのやる気も変わってきます。
そこで就業規則では、自分たちの価値観を共有できるように、ルールに対してポジティブな意味づけを行うことが大切です。
たとえば、「年休申請は3日前までに」というルールには、「代替要員の確保、仕事の引継ぎのために要する期間として、最低3日確保する必要がある」と意味づけすることで、社員の行動は前向きなものに変わります。
休むことでチームメンバーに迷惑をかけないよう、普段から仕事の進捗状況をチームで積極的に共有したり、属人的な仕事をなくすよう努力するでしょう。
社員を縛るのではなく、前向きで主体的な行動を引き出す。これが「社員が動く就業規則」の最大の目的なのです。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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