もし社員が、自分の会社に対する不平不満や同僚の悪口を取引先にあれこれ言っていることがわかったとき、経営者や上司の立場からすると、決していい気はしませんよね。
心情的にはその社員に対して、「信賞必罰として給与をカットしたり、何らかのペナルティーが必要だ!!」となるかもしれません。
だとしても就業規則で懲戒事由について定めていなければ、社員にペナルティーを課す(懲戒処分にする)ことはできません。
これは就業規則がなければできないことの、一例として挙げられます。
でも時として、「就業規則の有無」や「懲戒事由の定めがある・ない」が、社員の決して良いとは言えない態度にまつわる真の問題ではないこともあるのです。そんなエピソードを、今回はご紹介したいと思います。
悪口を叩く社員を懲らしめたい
ある経営者の方から、こんなご相談がありました。
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会社に対する不満や悪口を社員がどうやら言い合っているんです。待遇が悪いとか。
経営者の自分に対することならまだしも、社内にいる自分の息子のことも、悪く言っているようです。
「息子の言い分はよく聞くくせに、自分たちのことは何にも聞いてくれない」って。
このことは、取引先の社長から聞いてわかったんです。
「もう少し社員のことを気にかけたほうがいいんじゃないか」って言われて、恥ずかしいったらありゃしません。
これって、名誉棄損もいいところですよね。悪口を叩いた社員を辞めさせるのは無理でも、何らかの方法で懲らしめないと、思っています。
うちの会社は人も少ないので、就業規則も作ってこなかった。就業規則がないと懲戒をしてはダメと聞いたことがありますが・・・。
そのあたりどうなんでしょうか?
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「就業規則がない(懲戒事由の規定が就業規則にない)と懲戒処分はできない」のは、冒頭の通りです。
けれど社長さんの話をお聞きしていて、私が一番気にかかったのは「自分たちのことは何にも聞いてくれない」との社員さんの訴えの部分です。
社長が気づけなかった社員の本音
そこで「社長は社員さんの言うことに耳を貸さないのですか?」と伺ってみました。
すると「こちらに聞く気はあるんですが、言っていることの要領を得なかったり、タイミングが悪かったりするんです」とのこと。
詳しくお聞きしてみると、今の経営状態は上り調子でこの機会を逃すまいと、事業拡大に乗り出されているとのこと。店舗も新たに出店予定とのことで、新店舗に出かけたり、関係者との打合せ等々で、ここ数ヶ月の社長は会社を不在にすることがほとんどだったそうです。
社長と連絡を取りたい場合、社員さんは携帯電話にかけてくるものの、夕方まで対応できないことが多く、慌ただしく会話を終えることも多かったとのこと。
「社員さんは社長と話したいのではないですか」
「えっ・・・・・・??」
この件の社員さんは創業時からのメンバーだったので、態度の変わり具合に社長も心を痛めていたようです。昔は社員数も少なく、社長のご家族も含め、和気あいあいと気軽に冗談を言い合える仲だったそうです。
「社員が私と話をしたかったなんて、思ってもみませんでした。これから事業を拡大していくのに、社員と心が離れてしまっていてはうまくいかないですよね。私もゆとりを持って、落ち着いて社員の話を聞いてみます。罰を与えたい、辞めさせたい、その方法は?と思って来たのに、こんな話ができるとは思ってもみませんでした。」
ご相談にお越しになった時よりも、晴れ晴れとした表情でお帰りになりました。
社員の声を聞いていますか?
社業で忙しいなか、社員のクレームやトラブルは経営者にとって、青天の霹靂のような出来事かもしれません。
ですから「就業規則がない(懲戒事由の規定が就業規則にない)と懲戒処分はできないので、きちんと整備しておきましょう」ということもできるでしょう。
確かにこれは正しくて、もっともなことです。
けれど経営者が聞く耳を持っていて、社員に歩み寄る姿勢があれば、大きなトラブルへ発展する前に何らかの手が打てるはずだと思います。
社員が裁判に訴えるケースも、会社がこの歩み寄りのチャンスを逃したために起きるものが多いようです。
「就業規則に規定しているから大丈夫だ」と頼り過ぎることなく、普段から社員の状況を理解しようと気を配り、対応することがやはり大切だと、改めて考えさせられた一件でした。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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