社内の賃金制度を新しく見直した。それに合わせて賃金表も再設計してみた。さあ、社員を新しい号俸に格付けしてみよう。
ややっ、今支給している給料の額が、なんと号俸数の上限を超えてしまっているじゃないか。現在の支給額に合わせて、号俸を追加して設定すれば、原資の額がどんどん膨れ上がってしまう・・・
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初号俸の金額や昇給ピッチをどう設定するかなど、賃金表のシミュレーションに頭を悩ませる経営者、人事担当者の方は多いようです。
結構な時間や労力を割く前に、そもそも賃金表をつくる必要が本当にあるのか?と考えてみることが、賃金制度を構築するうえで大切です。
そこで今回は、今の時代において賃金表は必要なのかどうか詳しくみていきたいと思います。
賃金表をつくるメリット・デメリット
賃金制度といえば、かつては賃金表の作成とワンセットでした。高度成長期の工場モデルでは、右肩上がりで年功序列の賃金カーブを描くことが簡単だったからです。しかし、時代はがらりと変わりました。
今となっては賃金表の作成が、かならずしも役に立つとはかぎりません。メリットとデメリットがありますから、両てんびんにかけて検討することが大切です。
賃金表をつくるメリットは、賃金の全体額と昇給額の両方を管理できるので、人件費の予算が立てやすいことです。
また、社員にとってわかりやすく、会社も説明の仕方にあれこれ悩むことはないでしょう。
一方のデメリットは、業績変動へ柔軟に対応できないところです。今は、世界的にも経済情勢は不確実性をはらんでいます。よって、それに伴う会社の業績の変動予測はつきにくい時代だといえます。けれど賃金表を決めてしまったからには、そこで規定している昇給は、会社の業績がどんな状態であろうとも社員との約束事になってしまいます。また、社員の平均年齢が高くなれば、人件費の上昇につながります。将来的に制度を維持するのが困難になることは想像に難くありません。
これからの賃金制度のコンセプトは
不確実性の高い時代は、昇給額について固定的な運用よりも、柔軟に決定できることがポイントになってきます。
なぜなら、法律的にいちど上げてしまった社員の給料は下げることが難しいからです。そんななかでも会社としては事業を続けていかなければ、存続が危うくなってしまいます。
またバブルのような経済環境を経験したことのない、今の若手社員は「将来の保証よりも今(の給料が)欲しい」といった志向も見受けられます。
これらを総合して考えると、これからの賃金制度のコンセプトは、「今の頑張りに対して、今応える」ことがベースとなるでしょう。
賃金表は、勤続年数、学歴、年齢などの条件ごとの支給額を示したものですが、どうしても年功的な運用になりがちな側面があります。
また支給額を並べた表なので、評価の高い人には高いランクの金額、低い評価の人には、低い金額を格付けすることになります。その支給額は階段状に並んだ数字のため、わずかな評価点数の違いをどうやってあてはめるかは悩ましいところです。
そこで以下のように、範囲給の設計を考えるのもひとつの方法だと思います。
範囲給は、等級やポジションごとの支給額に幅(レンジ)があり、今の貢献度に見合った適切な賃金水準を絶対額として、基本給の上限額と下限額を設定します。
設計の手順についての大きなポイントは次のようになります。
- 等級やポジション別に、金額の最大値、最小値を設定する(幅(レンジ)の設定)
- 等級やポジションごとに人事評価の結果を、ポイント制で比例的に反映させる(たとえばS評価は5000点、A評価4000点、B評価3000点…のように)
- ポイントの単価を調整して、昇給原資にあった昇給額を毎期決定する
どんな行動や仕事が会社への貢献につながるのか
前段でお伝えした方法を採用するなら、人事評価の基準を社員へ明らかにする必要があります。
さもなければ、どんな行動パターンをとり、どんなスキルを身につけ、どんな仕事のやり方が会社へ貢献することになって、評価されるのかがわからないからです。
つまり、納得性をもって行動へ移すことができません。
どんな行動をとることが会社への貢献につながるのかを意識して、社員が動かなければ、会社の業績アップにはつながりません。
せっかく労力をかけた賃金制度が、社員からは「現在の給与を押さえるための手段」としてしか、認識されないおそれもあります。
賃金制度の構築で大切なのは評価基準を明確にすることで、社員にスキルアップの方向性を理解させ、人材を育て上げることです。
ともすれば「原資をどう分配するか」といったコスト意識に重きを置きがちになりますが、忘れてはならないのが「人材をどう育成するか」という視点です。
どんなスキルをつけるとどんな仕事を担当することになるのか、モデル社員の給与やキャリアパスを示すことで、「この会社で腰を落ち着けてキャリアアップをめざそう」と社員のやる気につながるのだと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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