さあ、みなさんの会社の就業規則を開いて1ページ目をみてみましょう。↓ こんな条文はありませんか?
「この就業規則はすべての社員に適用する」
もしあったとしたら、その就業規則は「作ってはいけない就業規則」である可能性がものすごく高いでしょう。
というのも、正社員向けの福利厚生、休職、退職金といった、パート社員には適用するつもりのない制度もパート社員に適用されることになるからです。
あとで「そんなつもりじゃなかった」と会社側が言い訳しても、「就業規則に書いてあるのに、なぜパートには適用されないのですか?」と、パート社員に不満を抱かせることになります。仕事に対するやる気を失わせてしまうかもしれません。
つまり、就業規則や諸規定は、誰に適用するために作成されているのかを確認することがとても大切なのです。
そこで今回は、作ってはいけない就業規則の内容を分析したうえで、本来とるべきであった対応について詳しく確認していきたいと思います。
パートにも就業規則は適用される
パートタイマーを含む常時10人以上を雇用する事業所には、就業規則の作成義務があります。
就業規則はすべての社員に適用されるものを作成しなければなりません。正社員用の就業規則は作成していても、パートタイマー用がないのではこれに反してしまいます。
とはいえパートタイマー就業規則の作成は義務ではありません。正社員用の就業規則の中に、パートタイマーだけに適用される労働条件を特別条項として盛り込むことも考えられます。
ただしイレギュラーの特別条項が多くなると、就業規則の内容が複雑でわかりにくくなってしまうこともありますから要注意ですね。
そのため、「パートタイマーとは、当社ではどのような社員のことをいうのか」という、実態に合わせた社員の定義をあらかじめしっかりと考えておくことが大切です。
専用の就業規則を作る方がよいわけ
いまは、個々のライフスタイルに合わせていろいろな働き方があります。さまざまな雇用形態の社員が、同じ会社でいっしょに働くケースは珍しいことではありません。
そこで、無用なトラブル(「どうしてお隣の席の〇〇さんとは待遇が違うの?そんなのおかしい!!」など)を避けるためにも、まずは実態にあわせた社員の雇用区分(社員の定義)をきちんと考えておくことがとても大切です。
つまり言い換えると、同じ社内に「正社員」と「パート社員」が存在するのなら、「正社員」と「パート社員」では、どのように雇用ルールが異なるのか、またその処遇差は合理的なものなのかどうか、について検討することが実務上のポイントとなります。
同一労働同一賃金の観点から検討した結果、正社員と処遇が異なるパート社員が存在するのであれば、専用の就業規則を作成するほうが、人材マネジメントもスムーズにいくと思います。それぞれの働き方の違いを、誰もが客観的に理解しやすいからです。
そのうえで、正社員用、パート用のそれぞれの就業規則において、あいまいな表現ではなく適切な表現で適用範囲が明らかにされているかをチェックしていくといいですね。
就業規則の委任規定に注意
前段では、パート社員や契約社員専用の就業規則を作成することをお勧めしましたが、正社員用の就業規則をまず整備し、その中でパート社員について適用除外の委任規定(「パート社員については別途定める」など)を設けることもあると思います。
そこで、ついうっかりと肝心の別規程を定めないままになっているケースがとても多いので注意が必要です。
労基法では就業規則はすべての社員を対象として定めなければならないとされており、「パート社員については別途定める」としながらも別規程がない場合は、法律に反することになってしまうからです。
そして結局のところ、委任規定だけ記載して、別規程がない場合は正社員用の就業規則をそのままパート社員に適用することになってしまいます。
なお、パート社員や契約社員専用の就業規則を作成したときには、社員に周知して意見聴取しなければなりませんが(労基法90条)、そのほかにもパート社員の過半数を代表するものの意見を聴くことの努力義務が課せられています(パート・有期雇用労働法7条)。
まとめ
パートタイマーなど正社員以外の社員を雇用している場合、正社員用の就業規則を適用するかどうかを必ず検討しましょう。
なお、パートタイマーや契約社員専用の就業規則を作成するなら、方法としては下記の2パターンが考えられます。
- パートタイマーや契約社員について異なる扱いをする規定だけをピックアップして別規程にする
- まったく独立した別個の就業規則を作成する
自社の実情に応じた方法を選ぶことで、管理がスムーズになると思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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