「就業規則は自分で作れるものですか?」
経営を軌道に乗せるために何でも自分でこなされてきた、努力家の経営者から多い質問です。
「固い決意を持ってすれば、作れなくはありません。ですが何のために就業規則を作るのかをあらかじめよく考えておくことが大切です。」
私はこのようにお答えしますが、その理由は3つあります。
今回は、なぜ自力で就業規則を作成するには事前によく考えておかなければいけないのか、その3つの理由について詳しく確認していきたいと思います。
多岐に渡る法律を把握しなければならないから
理由その1は「多岐に渡る法律を把握しなければならないから」です。
自力で作成する最大のメリットは、専門家(社会保険労務士)に依頼するコストをカットできることでしょう。
その代わりに専門的な法律の知識を、調べて理解する必要があります。
その苦労の分だけ労働法の知識を、ぐっと深められるのは間違いないと思います。
ちなみに社会保険労務士試験を合格するのに必要な勉強時間は、平均1,000時間と言われています。これは単に合格するためだけの時間なので、使える知識にするにはそれ以上の時間を要します。
お伝えしたいのは「就業規則作成に必要な専門的知識を習得するには、同じだけの時間がかかりますよ」と言いたいのではなく、相当の時間がかかる心づもりをしなければならないということです。
本来であれば社業に費やせたはずの時間を削らざるを得ないことは十分考えられます。
条文の言い回しが難解になりがちだから
続いて理由その2は「条文の言い回しが難解になりがちだから」です。
就業規則の内容はその根拠を労働法に求めますから、法律的な言い回しをどうしても避けられません。
たとえば
「その勤務しないことがやむを得ないと認められる場合」、や
「前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する」、
・・・のような言い回しです。
よく読めばわかるのですが、話し言葉ではないので一瞬戸惑ってしまいます。
自分で作成するとなると、厚生労働省モデル就業規則などを参考にされるかもしれませんが、慣れていなければこのような文章を読むだけでも手間がかかりそうです。社員を雇うからには必要なことだとはいえ、心理的なハードルも高いのではないでしょうか?
確かに労力を費やして厚生労働省モデル就業規則の規定を読みこなすと、その分確実に就業規則の全体像を把握できると思います。
ただし社業が忙しいと後手に回ってしまい、いつまでも就業規則が完成しないケースも実際は多くみられます。
客観的に自社を振り返ることが難しいから
理由の3つ目は「客観的に自社を振り返ることが難しいから」です。
就業規則を作成するには、過去からの歩みを紐解き、現状分析が欠かせません。ぜひ「就業規則の7つのポイント」をもとに自社を振り返っていただきたいと思います。
そこでよくお聞きするのが「自社を振り返るポイントはわかったが、私情をはさんでしまい客観的にみるのが難しい」ということです。
前述の2)にもつながりますが、振り返ってみたものの、その内容を条文に落とし込むのに手間取ることもあるようです。
とはいえ就業規則を作るぞ!と決意したことで、じっくり自社を振り返る機会を持つことはとても素晴らしいことです。
やっつけ仕事で一応の完成をみたとしても、実態に合っていなかったり形骸化しやすいからです。
以上を簡単にまとめると、自社を振り返る良い機会にはなるけれど、客観的に分析して条文にするのは難しくて、手間がかかるということです。
まとめ
就業規則を何のためにつくるのかというと、それは職場を良くしたいと思われたからのはずです。
社員と一緒に会社を伸ばしていく、という想いがあってのことだと思います。
人材マネジメントのために基礎的な知識は経営者に必須ですが、かといって細部に入り込んだ知識まで必要かどうかは疑問があります。
経営者に求められるのは社業を先導していくことなのであって、役員室に閉じ籠って法律の勉強をすることではないはずです。そのために社員のことや現場をみれなくなっては本末転倒でしょう。
1日はどんな人にも平等に24時間しかなく、36時間とか48時間に増やすことはできません。
そのため、自分がやらなくてもよいものは第三者(専門家や部下など)の手を借りることで、時間と手間をショートカットする、と決めるのもひとつの考え方です。
コストカットや知識を深めることができるのは、就業規則を自力で作成することのメリットですが、本来の仕事(社業)との兼ね合いを考えて優先順位を考えることが大切だと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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