「いきなり会社を辞めたいと言われると、会社側としては引継ぎやら後任者の選定、人員の補充など大変なので、“退職願は3か月前までに提出すること”と就業規則で義務付けてもいいですか?」
退職の申出が突然あったと思いきや、そのまま出社しなくなってしまった・・・そうすると、社内の業務だけでなく取引先との関係もあるので、残された周りの社員はそれらのフォローのためにてんやわんやになってしまいます。
そんな事態を防ぐために「退職願の提出は3か月前までに」と決めたいのは、心情的には理解できます。
ですが、あまりに長い予告期間を設けることは、社員を不当に拘束することにもなりかねません。
そこで今回は、退職願の提出時期はどのくらいにするのが適当なのか、詳しく確認していきたいと思います。
退職願はいつ出せばいいのか
労働契約には、「期間の定めのない契約」(←正社員など)と「期間の定めのある契約」(←パート社員など)があります。
期間の定めのない労働契約を(定年前に)終了させるには、会社と社員の双方が合意するか、どちらかが解約する必要があります。つまり、下記のようになります。
- 解雇→会社側が解約すること。客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが求められる。
- 辞職→社員が一方的に退職を通告するもの。退職日は退職を申し出て2週間を経過した日となる。
- 合意解約→社員が退職の時期を願い出るもの。退職日は会社が承認した日、もしくは会社と社員の合意で決定した日。
このように、法律では退職願の提出時期を定めているのではなくて、「労働契約の終了」という効果が発生する時期を定めています。
退職が合意解約である場合は、その退職の時期を会社とその社員本人の合意で定めることができます。
この場合の退職日は、「会社が承認した日」とすることもできますし、退職の申出(退職願の提出)を14日より前に求めることや、退職時期をたとえば1か月後とすることも問題ありません。
3か月前までの提出を求めてもいいのか
就業規則で「1か月前までに退職願を提出すること」と定めている会社もあるでしょう。
たとえ1か月前までの申出を定めたとしても、本人の退職の意思が固ければ、会社の承諾がなくても原則として、2週間(14日)経過後に労働契約は終了することとなります。
つまり、このような規定の存在自体が無効となるのではなく、規定に違反しても退職の効力が生じることになります。
「じゃあなんでそんなこと定めるの?」と思われるかもしれませんが、就業規則に1か月前までの退職の申出を定めることの趣旨は、むしろ急な退職の申出(辞職)を抑制することにあります。冒頭の例のように残された周りの社員たちがパニックになるからです。
この1か月という期間も、会社の解雇予告期間である30日とのバランスを考慮してのものでしょう。よって、退職願の提出時期は最長でも退職日の1か月前までとすることが適当でしょう。3か月は公序に反すると考えられます。
また、明らかに無効となる規定を就業規則に設けることは、会社と社員の間の信頼関係を根底から揺るがすことになりかねませんから、お勧めできません。
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社員の退職が決まると、会社として心配なのは業務の引継ぎです。
業務の引継ぎをきちんと行い、退職日を迎えるまで誠実に勤務する旨を就業規則に定めておきたいところです。
・・・とはいえ、仕事が属人化していると、その人が辞めたり休んだときには「えらいこっちゃ!」な事態になりがちです。
意外とその人にしかできない仕事は少ないものです。現実として人は辞めることも休むこともあるものですから、同じレベルのスキルを持つ人を育てたり、業務のマニュアル化を進めることも、同時に考えていきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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