「退職日まで残りの年休を消化したいです。今までずっと忙しくて取れずじまいだったので、いいですよね?」
辞める社員からの年休取得の申し出。引継ぎがないまま休まれると後任の社員に過度の負担をかけることになってしまうので、仕事の引継ぎをきちんと行ってくれるかどうかが気になります。
かといって、会社としては退職日を超えて年休の時季変更権を行使することはできません。
では、会社としてどのような対応をとると、仕事に支障をきたすことなく、辞める社員も残る社員も困らず、うまくいくのでしょうか?
そこで今回は、辞める社員の年休取得の申し出に慌てることのないよう、とるべき会社の対応について詳しく確認していきたいと思います。
退職前の年休トラブルにメリットはあるか?
繁忙期など年休をとれば仕事が回らないといった場合には、会社は時季変更権を行使することもあるでしょう。
とはいっても、社員の退職日を超えてまで、時季変更権を行使することはできません。つまり、退職を申し出ている社員が、残っている年休を取得してから辞めたい、という場合もこの請求を認めざるを得ないと考えられます。
「引継ぎをきちんとやりもしないで、年休を取得するなんて・・・年休で休んだ分の給料は支払わなくてはいけないのか?」と思われる経営者や管理職の方もいらっしゃるかもしれません。
けれど法律的に取得できるはずの年休を取れない、(年休ではなく欠勤扱いになることで)支払われるべき給料が支払われないとなると、トラブルが勃発することは想像に難くありません。そして、何よりも退職前のトラブルでのごたごたによって周りの社員に与える、良くない影響のことを考えなくてはなりません。
実務的な対応策はどうなる?
では、会社としてはどのように対応するとよいのでしょうか。実務的には、下記のような対応策が考えられます。
- 仕事の引継ぎに必要な分、退職日をずらすことができないか本人と話し合う
- 退職時に残った年休分を買い取ることで金銭的に補償を行い、引継ぎを行ってもらう
それぞれについて説明します。
1)について、きちんとした引継ぎがなければ本人の仕事をカバーする同僚社員が困ることを伝えたうえで、本人の事情と会社の都合を調整することが大切です。
本人の言い分を聞きすぎる必要はありませんが、あまり責め立てても良い結果を招かないでしょう。罪悪感から(←無理を言っていることは本人も薄々感じている)、よけいに反抗的な態度になるかもしれないからです。
あくまでも目的は「スムーズな仕事の引継ぎ」であること。感情的にならずに、落ち着いて冷静に対応したいところです。また就業規則に、「退職日までに所定の引継ぎを終えなければならない」と引継ぎの必要性を規定しておくこともポイントです。
2)について、事前に年休の買い上げを予定することは法律で禁止されていますが、退職によって権利が消滅する年休の残日数を買い上げることは可能とされています。これも本人とよく話し合って調整することが大切です。
なお、事前に年休の買い上げを予定することが禁じられていますから、就業規則に規定することは適切ではありません。そもそも年休の目的は、パフォーマンスを最大限に発揮してもらうための「休養」だからです。
計画的に休むことで業績アップにつなげよう!
退職を決めると社員が年休取得の申出をバンバンやるのは、今まで年休をとれなかったから。
もしかすると今まで年休取得を我慢していた分、退職前に権利の主張をしたくなるのかもしれません。
先に年休の本来の目的を「最高のパフォーマンスのための休養」と書きました。退職日前にまとめて年休をとってもらっても、その社員にパフォーマンスを発揮してもらうチャンスはあるでしょうか?
そのチャンスはもはや残されていませんよね。
つまり、退職日前に休んでもらっても、もはや活躍する機会がないので、会社の業績アップにはつながらないのです。
ですから、会社の業績を伸ばすためにも、計画的に年休をとってもらう(年休の計画的付与制度といいます)ことを考えることはひとつの方法です。年休のうち5日は社員が病気やプライベートな理由で自由にとれる日数として残しておかなければなりませんが、それ以外の日数については会社があらかじめ年休消化日として指定することができます。
この年休の計画的付与制度は、下記のように現場の実態に応じて対応することができます。
- 会社(事業所)全体を休みとする
- グループごとに交代制で休む
- 個人ごとに休む日を指定する
**
仕事をスムーズに進めながら、年休をとってリフレッシュする。そうすることで社員の毎日の仕事での踏ん張りがかわってくるでしょう。
会社や仕事を生活のど真ん中に置く「仕事志向」の考え方は、若い世代を中心に弱まりつつあります。
働くうえでのモチベーションを高め、社員の力を有効に活用していくために、企業としても「生活と仕事の両立」を視野に入れた人材マネジメントを考えていかなければならない時代がきているといえます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事