この間、経営者仲間から人事制度があると会社が良くなるらしいと話を聞いた。それなら当社でも作ろうか。とはいえ、内容的に複雑すぎてよく理解できなかった。そもそもうちに合っているのかな?(中小企業の経営者 談)
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大きな企業ではたくさん社員がいるので、全員のことを経営者ひとりが詳しく把握するのは難しいでしょう。
経営者が一人ひとりにそれぞれの評価について、詳しく説明することが困難になったとき、みんながわかる明確な評価基準や制度が必要となります。ですが規模の大きくない企業では、経営者が社員全員のことをよく知っていて、社員一人ひとりの顔をみながら伝えることもできるのではないでしょうか。
そうなのであれば、人事制度を作る前にまずは、経営者の考えを社員にわかりやすく伝えることのほうがとても大切です。
経営者のメッセージを社員に伝えるには
では経営者の考えを社員にわかりやすく伝えるには、どうすればいいのでしょうか。一般的に、次の5つの方法があると思います。
- 「口頭」で伝える
- 「文書」で伝える
- 「人事」で示す
- 「予算の配分」で示す
- 「組織の編成」で示す
1は年度初めに行われる経営方針の発表が、代表例に挙げられます。
改まった機会の方針説明もさることながら、毎日の朝礼などで経営者が日常的に伝えていくことが大切です。
これを文書化するにあたっての典型例は、経営計画の作成と発表でしょう(2)。
3では、経営者の考えや方針を実現するにあたって、リーダーや責任者の抜擢がこれにあたります。旗振り役が明確でなければ、物事は遅々として進みません。また誰を任命するかで、経営者の本気度の伝わり方が変わってきます。たとえば社内であまり人望のない人がリーダーであれば、推進力は弱そうですよね。「社長は本気じゃないのかな?」との印象を社員へ与えてしまいかねません。
4は、経営者の考えや方針を実現するための予算が計上されているかです。予算の規模が大きいほど、経営者の力の入れ具合が社員に伝わります。逆にリーダーから「方針の具体化には試算したところ、これだけのコストがかかります」との進言があっても、経営者からその費用の決裁が下りない、計上されてもごく少額となれば、「本当にこの方針は重要視されているのかな?」と社員から思われてしまいます。
5は、経営者の考えや方針を推進する部署やプロジェクトチームの発足などが、これにあたります。たとえば1で「今期は顧客の新規開拓に全力を注ぐ!」と口頭ベースでスローガンが掲げられていても、特に推進チームの発足もなく、従来業務との兼任くらいの位置づけだとしたら、どんな印象を社員に与えるでしょうか?「毎度言ってることだな…」とせっかくの意思表明も社員に伝わらず、日々の仕事に埋没してしまいがちになります。
中小企業ではまず就業規則を整備すること
中小企業においては、前述の1と2が特に大事です。
口頭で一度社員に伝えたからといって、真の意図は理解されにくいものです。伝わっているのは、私の感覚では、1、2割程度でしょう。
切り口を変えて根気強く、日々伝えていく努力が必要だと思います。
先では経営者の考えや方針の文書化に経営計画を挙げましたが、特に働き方や組織のあり方を伝えるのツールのひとつに就業規則があります。
就業規則に業績を上げるのに必要な、社員の行動パターンなどを規定することで、経営者の考え方を社員に伝えることができるからです。
小さな組織では、社員に公平な処遇を行うため、経営者の考え方を反映させた最低限の統一的なルールを就業規則で定めておくことがとても大切です。ここがあいまいになっていると、人事制度の構築も形骸化してしまいかねません。
ビジネスが拡大するにつれて、社員の顔を見ながら直接伝えることが難しくなってきたとき。これが人事制度をつくるタイミングです。明確な評価基準や誰にとってもわかりやすい賃金体系の構築に着手するといいと思います。(前述の3から5は人事制度に組み込むといいですね)。
就業規則に経営者の考えを反映させておくと、後で人事制度を構築するプロセスがスムーズに進みます。
就業規則は人事制度の土台となりますから、経営者の考えをしっかり反映させておかれることをお勧めします。
*ご参考までに、就業規則と人事制度をうまく運用できるプロセスを以下に挙げます*
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経営者の考え
- 販路を広げたい
- 国内市場が縮小傾向
- 海外メーカーからの引き合いが増えた
言語化
- 海外市場からの需要にウェイトを置く
- 国内の既存客のフォローもあるので効率的に仕事へ取組む
就業規則
- 業務の実態に合った仕事のやり方を推進
- 海外との時差に対応した始業・終業時刻
- シフト勤務制
人事制度
- 生産性を向上させ効率的に仕事する人を評価し、賞与やインセンティブを支給する
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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