社員の親が書いた退職願は有効ですか?

テーブルいっぱいに広げられた楽譜。その上に置かれた白紙の便箋と封筒。傍らにガーベラのブーケ。

先日テレビをつけると、ドラマをやっていました。たまたま目にしたシーンは、(親が薦める)結婚相手と結婚してほしい父親が、婚姻届にサインしようとしない娘に向かって、「私が(父親が)婚姻届に署名捺印しておく」というようなセリフを放つところでした。

 

そこで思い出したのが、以前にいただいた「社員の親御さんが書いた退職願を会社として受理してもいいのでしょうか?」というご相談についてです。社員さんが入院されたため、代わりにご家族が退職願をお書きになり、会社へ提出されたとのことでした。

 

ちなみに前述のテレビドラマでは、婚姻届にサインしたのは父親であった(娘の意思ではない)ことが結婚相手の知るところとなり、結果として破談となる(親の書いた婚姻届は無効になる)ストーリーでした。

 

では、「親が書いた退職願」は有効になるのでしょうか

今回は、退職願をめぐる問題について会社はどう対応するとよいのか、確認していきましょう。

本人の意思によるものかがポイント

クロスが掛けられたテーブルに置かれた本。開かれたページの上に眼鏡が置かれている。カフェラテのカップに手を添えるセーター姿の女性。

会社を辞めたい、という退職の意思表示は口頭でももちろん有効です。

 

けれどその意思表示は、雇用関係の消滅という重大な結果をもたらします。ですから、退職の意思表示は明らかにしておくべきであり、書面によることが望ましいでしょう。

 

では、冒頭の例のように、社員本人が入院中で意識ははっきりとしているものの、療養中のため退職願に署名捺印できないようなとき、親が書いて会社に提出した退職願は有効になるのでしょうか。

 

この場合、正当な理由(療養中により退職願を書けない)があり、本人の意思で依頼しているため、他人の代筆でも有効となります。

 

なお、さらに会社として判断に迷うのは、社員本人が意識不明で入院中であり、家族が本人に代わって退職願を書いて提出したようなケースです。代筆者である家族が本人の意思を忖度して提出したとしても、会社は退職として取り扱ってよいものでしょうか。

 

この場合、本人が「自分の意思で退職願を出したのではない」と、このこと(代筆者である家族が社員本人の意思を忖度して提出した)について争わないのであれば、本人の署名の代行、または代理人による意思表示として、一応有効として処理して差し支えないと考えられます。

本人の意思に反すると無効

ページが開かれた本。カフェラテの入ったカップ&ソーサ。シャクナゲの花。

前段では、親の書いた退職願であっても本人の意思によるものであれば、有効になるということでした。

しかし、本人の真意に反し、親や家族が勝手に退職願を会社に提出しても、本人がこれを認めない限り、当然ながら有効とはなりません。

 

父親が本人に無断で退職願用紙に本人の氏名を書き込み、会社に郵送したケースについて、無効とした判例があります。このことから、会社として社員本人に事実確認を行うなど、注意の必要なことがわかります。

 

また、退職願の退職日の日付を空欄にして、会社に提出される場合もあることでしょう。

それが、退職日の日付を会社の事務処理手続きの完了日とする趣旨で空欄にしておいた、という本人の意思に基づいて、会社が日付の空欄を補充することは問題ありません。

 

ただし、次の1)かつ2)のケースでは注意が必要です。

  1. 退職日の日付と実際に退職願の提出された日との間に相当の期間がある
  2. 退職願の提出は本心から行った行為ではなく、反省の姿勢を示すために退職願を預けた、と社員本人が主張している

これは、以前に会社へ提出された退職願(退職日付は空欄)について、(その社員の退職話が現実的に持ち上がったので)会社が日付を補充した・・・というような状況です。

 

この場合、会社側で書き込んだ日付について、会社に退職日の日付を補充する権限を委ねていたわけではない、との社員本人の主張が認められる可能性があります。ですから、あらためて本人に退職日の日付を記入してもらうか、再度退職願の提出を求めるかをしておいたほうが、無用なトラブルを回避できるでしょう。

 

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会社と本人のつながりがなくなる(雇用関係の終了)ときも、重要なのは双方のコミュニケーションです。お互いの本音を交わすことができれば、どんなことであっても大きな問題には発展しません。

 

退職時のトラブル回避だけでなく、仕事を日々うまく進めていくためにも、何か気になることがあれば逐一報告があがってくるような、「密な」関係をぜひ職場で築いておきたいですね。

クロスが掛けられたテーブルに横たえられたピンクと白のチューリップたち。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。花びんに活けられた真っ赤なバラ。白の置時計。
社員を伸ばす人事制度構築コンサルティング。談笑するビジネススーツ姿の男女。

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